プッシャー症候群(プッシャー現象)。作業療法科の教員が「なぜ傾く?」を解説してみる。

2020/07/29


以前、片麻痺患者の動作分析について書きました。

急性期プッシャー型と回復期円背型、という2つのタイプにわけて、回復期円背型を例にあげて視点や考え方について説明しました。

そのエントリを見た学生から、そもそもどうしてプッシャー症候群は麻痺側に傾くのかという質問が多かったので、学生に向けて解説してみます。

麻痺側は自分では支えられないため、非常に危険です。それなのに麻痺側に押し込んでくるのです。普通に考えると、非合理的な反応です。学生が混乱するのもわかります。

 

治療・リハビリにつながる解説がほしい。

プッシャー症候群(あるいはプッシャー現象)はもちろん授業でも扱ってます。でも実際に症例を見ると、細かいところに疑問が湧いてくるんでしょうね。

プッシャー症候群に関して、よく「体軸のズレ」という解説を目にしますが、なんでズレるのか、疑問がわきます。「固有感覚、迷路、視覚情報が統合できない」というのがその答えとして正しいと思いますが、頭の中のことをどうやって治療するのかイメージが湧きません。

 

「なぜ傾くか?」よりも「なぜ押すのか?押し続けるのか?」という視点で。

プッシャー症候群の患者さんを担当したことのある人は、非麻痺側の上下肢や体幹背部の高緊張に気づくと思います。

とにかく突っ張る。押し込んでくる(突っ張る、押し込む、同じ意味で使っています。)。力抜きましょう、と言っても抜けない。正中位に戻そうとすると更に力が入り、麻痺側から介助で支えても、非麻痺側から支えても、頑なに麻痺側に押し込んでくる。

軸の傾きの問題だけであれば、左右の傾きの幅にもう少し余裕があってもいいような気がしますし、介助者がちょうどいいところ(本人とっての正中)で支えたら力は抜けるはずです。でもプッシャー症候群の患者さんは、常に緊張が高く、少しの外乱でビクッとし、恐怖感をともなうような力の入り方をみせます。

 

傾くのは「結果」だと捉えた方がいいと思う。

結局、傾く理由は、非麻痺側の高緊張の押し込みの「結果」であって、実習中の学生は、その押し込みをどうにかしたい、どのようなリハビリをすれば力が抜けるのか、と思っているはずです。

 

ある日突然グラグラする恐怖感

片麻痺の患者さんは、ある日突然片麻痺になります。

その瞬間から半身が動かなくなり、半身が感じなくなり、起きても寝ていても倒れそうな感覚、あるいは落下しそうな襲われるといいます。

患者は自分がどれだけ傾いているのか客観視することができません。とにかく倒れそうな自分の体をどうにかしようと反応します。

その反応が突っ張っている現象です。本当は両足で突っ張っているつもりだと思いますが、実際は麻痺のない片足だけが突っ張ることになります。体幹も麻痺側は力が入りません。結果的に麻痺側に傾きますよね。

そんなわけで、右脳、左脳に関わらず、プッシャー症候群は急性期によく見られます。さらに半側身体失認や半側空間無視があると、麻痺側への認知(認識)がないわけですから、その傾向は強くなり、また長引くことになります。

 

グラグラしたとき、人は本能的に突っ張る。

倒れそうなとき、患者さんの多くは下肢や体幹を伸ばして突っ張ります。そして麻痺側後方に傾き、倒れることになります。

稀に、危険を感じたとき体を丸めるような反応があるように、そういう反応をみせる患者さんもいますが、大抵の場合、下肢・体幹は伸ばす方に力をいれます。

乳児や胎児がそうですよね。背伸びをしたり、お腹の中で蹴ったりします。胎児はキックはしてもパンチはしません。人はもともと背筋側の力が入りやすく、腹筋側は力が入りにくい。

片麻痺の患者さんは脳の機能が失われ、赤ちゃんのときに見られる原始反射(病的反射)が出現します。脳が原始に近い状態になっていると考えられます。つまり突っ張るのは本能、ということにしておきましょう。

 

力を抜く感覚をリハビリで再学習しよう。

なぜ傾くか?の解説はここまで。

最後はリハビリテーションの方法や考え方について。

リハビリは、文字だけの解説は難しいのですが、ハンドリングのうまい理学療法士や作業療法士を見ていると、体を密着させたり、バスタオルでくるんだり、前方から机やクッションを当てたりすることで突っ張る患者さんの力を抜くことに成功しています。

体を支える面(支持面)を丁寧に増やしていくことで、包まれているような感覚を得ることができ、力が抜けるのだと理解しています。上手く力が抜けた状態で、手を動かすなど活動を広げていけば、正しいバランス反応や運動の学習(再学習)が進んでいくと思います。

みんなつまずくよね?片麻痺患者の姿勢分析・動作分析の視点とか考え方とか書き方について